東京高裁の不当判決に抗議する

 本日7月13日、東京高等裁判所第10刑事部は、乳腺外科医師冤罪事件の控訴審において、「外科医師は無罪」とした東京地裁の無罪判決を破棄して、懲役2年の実刑判決を出しました。私たちは、この不当判決に満身の怒りをこめて、断固抗議をするものです。

 この事件は、2016年5月10日、東京都足立区の柳原病院で右胸から乳腺腫瘍を摘出する手術を執刀した外科医師が、女性患者から「術後に左胸を舐めるなどのわいせつ行為をされた」と訴えられたものです。患者は手術時に全身麻酔をしており、「被害」を訴えたのは術後約30分のことでした。外科医師は、一貫して無実を主張していました。外科医師は2016年8月25日に「準強制わいせつ罪」で逮捕され、9月に起訴されました。逃亡・証拠隠滅の恐れがないにもかかわらず、外科医師の身柄拘束は105日間も続きました。

 弁護団は、「女性患者は術後せん妄の状態にあり、幻覚を見ていた可能性がある。科学捜査研究所によるDNA鑑定およびアミラーゼ鑑定は再現性・科学的信頼性がない。手術前の診療行為の際などに、外科医師のDNAが付着した可能性があり、わいせつ行為を行なったことにはならない」と一貫して主張してきました。東京地方裁判所においては、①麻酔覚醒時のせん妄の有無と程度による患者証言の信用性②DNA鑑定及びアミラーゼ鑑定に対して科学証拠としての許容性、信用性及び証明力を主要な争点として審理され、「犯罪の証明がない」として2019年2月20日、無罪判決が出されました。

 東京高裁では、「手術後のせん妄の有無」を争点として専門家による証言が行われました。審理のなかでは、豊富な診療例と国際的に確立された診断基準により「女性患者がせん妄状態であったことは明瞭である」ことを示し、事実と科学的道理にかなうのは「控訴棄却判決」=「外科医師は無罪」しかないことが明らかになりました。それにもかかわらず東京高裁は、非常識かつ非科学的な判決を言い渡しました。判決では、自ら「せん妄の専門家ではない」と法廷で言った高裁の検察側推薦の証人が独自に展開する証言を採用し、一審段階からの専門家の科学的知見を排斥する暴挙に出ました。そして、DNA鑑定及びアミラーゼ鑑定についても、データや抽出液廃棄などが行なわれて再現性・科学的信頼性がないのにもかかわらず、科捜研の検査員であることを理由に信用性を認めました。事実と科学を否定した判決であり、「有罪ありき」と言わざるをえないものです。

 外科医師の逮捕・起訴から約4年間、今でも多くの医師・医療従事者、さらに患者がこの事件に関心を寄せているのは、「麻酔覚醒時の患者証言のみにより逮捕・起訴・長期勾留されることになれば、日常の医療行為が安心してできなくなる」との懸念を抱き、それが医療現場の委縮を招き、ひいては患者の生命や健康に損害を及ぼしかねないからに他なりません。

 私たちは、事実に基づいた科学的な証明により外科医師の無実を確信し、支援を続けてきました。外科医師の無罪を勝ちとるためにご支援いただいた全国の皆さんに心から感謝を申し上げるとともに、引き続き、弁護団と手を携えながら、一日も早く無罪を確定させるまで奮闘する決意を表明します。

  2020年7月13日

                外科医師を守る会

             7月13日 東京高裁前
          7月13日 判決直前にも高裁前で訴えました

“   東京高裁の不当判決に抗議する” への5件の返信

  1. もう10年も前、
    先生に診断をして頂いた者です。
    先生の薦めで私の願う治療を受けられる
    病院に転院し、
    そのおかげで今は子供にも恵まれました。

    今でも当時の適切なアドバイスと
    テキパキとした処置を思い出し感謝しています。

    当事者では無いので、勝手な事も言えませんが、
    私の知る先生は患者に対して今回のような行為をする人ではありません。
    無実であるならば、
    有能な医師が活躍できる年数を
    裁判に費やしている事自体、
    ご本人はもとより、患者にも大きな損失だと思います。

    どうか、真実が勝利する日来ますように。
    そしてまた、先生が現場で活躍出来る日が来ますように。

  2. 看護師です。この事件で無罪判決が出た時は本当にほっとしました、日本の裁判もまだちゃんと機能しているのだなと感じていました。しかし逆転有罪をニュースで見て本当に腹がたち、絶対にこのままにしてはいけないと思いました。「医療者だから肩、もってるんじゃないの?」なんて一般の人は考えるかも知れません。そうでは無くて正しい裁判が行われていないことを世の中に伝えていかないといけないです。自分の大切な人が冤罪になってしまったら。。と考えなくてはならないのです。外科医師の先生、ご家族の方々、応援しています!

  3. とんでもない判決が出てしまいましたね。
    高野弁護士の「このような裁判に、我々は怒りを通して、どうすればいいか分からない」の言葉がとても重いです。どうしたら無罪を勝ち取れるのか・・・
    私に何が出来る訳でもありませんが、ただただお祈りしております。

  4. どんな角度から見ても、無罪以外に考えられなかったのでショックです。裁判官らは、証人尋問での専門家の意見をどう捉えていたのでしよう?改めて日本の裁判の理不尽さを実感します。でも、負けてはいられません

  5.  医療従事者ではありませんが、科捜研のサンプルやデータの取り扱いは、過去に研究開発職に就いていた者から見ても杜撰と言わざるを得ませんし、導き出された結論に過剰に重きを置き過程を蔑ろにする裁判官の決定にも暗澹たる気持ちしかわいてきません。裁判官は、法理を検討する際には法文の読み方や解釈について専門家の観点から精緻に検討し、事件で起きた事象の外面だけで罪状や刑罰を決定することはないはずです。それ故、一般的な感覚と実際の決定とに乖離が生じることも多々あります。科学においても同様の態度が求められると、自身の職務との比較により理解できそうなものですが、あまりにも雑な結論付けに怒りしか感じません。
     乳腺外科医、弁護士をはじめとして関係者の方々の論理的な訴えが最高裁において適正に判断されるよう祈りつつ応援しております。

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