柳原病院の声明

声明1 : 2016年8月25日 15時45分 医療法人財団健和会 柳原病院

警視庁による当院非常勤医師逮捕の不当性について抗議する

1、当院非常勤医師逮捕について

2016年8月25日、警視庁により当院非常勤医師が逮捕されたとの報道がされ、その後当院はその事実を確認した。この逮捕は全身麻酔手術後患者の訴えのみを根拠とする警視庁による不当な逮捕である。

2、経過

2016年5月10日、16時頃、当院1泊入院予定で右乳腺腫瘍摘出手術を実施したA氏が、手術終了直後に4人部屋の病床にて、術後診察に訪れたB非常勤医師からわいせつな行為をされたとして、友人を通じて警察通報した。なお、A氏はB医師が勤務するCクリニックのB医師が担当する外来患者で、手術のために当院に入院した。同日、通報により千住警察署員が来院し、当院は患者本人や他の入院患者の症状に配慮しながら、求めに応じてA氏との面談のために場所を提供し、当該病床にも案内をした。

当院は直ちにA氏に関係した職員より手術前から通報に至る間の状況について聞き取りや病室とベッドの位置、ベッド高さ等現場検証を行った。また、6月9日には、A氏申請に基づいて全診療記録を警察署へ持参した。7月7日には、当院内部調査による時系列事象や現場検証実施の記録及びそれらの検討からわいせつな行為はなく、捜査を速やかに終了するよう求める申入書を当院顧問弁護士名で提出した。その際警察は、A氏身体からの採取物から物証があったと明言することはなく、当院にこれ以上の捜査協力を要請する根拠も理由も示せなかった。7月7日以降千住警察からは一切の問合せもないまま、8月25日突然の逮捕となった。

3、当院の見解

当院は詳しく院内調査を実施し、顧問弁護士と相談しながら院内調査の概要を示すとともに、警察の要請に対して対応してきた。また、A氏自身は5月11日、27日の術後診察を当院外来で受診し、半年後の経過観察の診療予約も行っている。

当院の調査でA氏の術後の供述は、全身麻酔による手術後35分以内のことであり、その内容は、手術前の恐怖や不安と全身麻酔で行った手術後せん妄状態での幻覚や錯覚が織り交ざったものと確信する。さらにA氏は満床在室の4人部屋におり、術後の経過観察に看護師が頻回に訪床する病床にいた。多くの目がある環境の中でA氏の供述の様な事が誰にも知られず行われたとは考えられない。この様に当院として医学的、客観的に状況や経緯を検討し、その調査結果を警察に提示したにもかかわらず、警察は「A氏の証言に信憑性がある」と判断して非常勤医師の逮捕にまで踏み込んだのである。この様なことが許されれば、今後、施術医師が術後診察に病室を訪れることを躊躇う要因ともなり、正当な医療行為に制約を付すことになりかねない。

当院は、今回の不当逮捕に強く抗議する。警察は、手術後せん妄状態時の患者証言に信憑性があるとして明確な証拠も示さず、準強制わいせつによる逮捕にまで踏み込んだものである。しかし、逮捕の要件であるところの、逃亡のおそれ、証拠隠しのおそれなどの事由は、B医師にはない。多数の患者の健康をあずかる医師を逮捕し勾留することは、自白強要を目的とするものと言わざるを得ない。この警察のやり方は不当であり、この間の冤罪事件での捜査手法や人権蹂躙に対してなんら反省もない態度だと考える。さらに警察のこうした横暴が、医療現場に混乱を与え、患者、利用者、職員やその家族に不安を招いた事を、当院は厳しく糾弾するとともに、警察当局に謝罪を求め、この様な強引で不当な捜査を直ちに止め、B医師を速やかに釈放するよう求めるものである。

以上

声明2 : 2016年9月17日 17時00分 医療法人財団健和会 柳原病院

当院非常勤医師の起訴について

1、当院非常勤医師の起訴について

2016年9月14日、東京地方検察庁は、8月25日に逮捕された当院非常勤医師に対し、起訴を決定しました。当院は、この起訴決定に抗議するとともに、医師を速やかに釈放するよう求めます。

2、経過

当院は、2016年8月25日付で「警視庁による当院非常勤医師逮捕の不当性について抗議する」との声明を発表し、医師逮捕への見解を明らかにしてきました。これに対し、当院には多くの医療関係者や患者の方々から、当院の見解を支持する声や、医師の名誉回復を願う声などの激励が寄せられました。

この間警察は、二度にわたり当院への家宅捜索を行い、およそ事件に無関係な個人情報を含む二十数点もの資料を押収しましたが、嫌疑を裏付けるものは何一つありません。また患者に関わった当院医師と看護師が、期日前証人尋問に応じましたが、逮捕された医師に何ら嫌疑がないことを証言する以外にありませんでした。医師も警察の取り調べに対して否認を貫きました。また、短期間に七百余名の方から早期釈放・不起訴を求める嘆願書が集まり、地検に提出されました。しかし、逮捕から21日間の勾留期間を経て、9月14日の起訴に至りました。起訴状の公訴理由は、これまでの逮捕勾留の根拠とされた被疑事実から時刻や行為の内容が大幅に変えられ、起訴ありきの考えをうかがわせるものでした。

3、当院の見解

現時点でも警察からは物的証拠は何も示されず、家宅捜査や証人尋問においてさえ、容疑を裏付けるものは何一つありません。改めて本件は、無実の事案であり、逮捕勾留は自白の強要を目的としたもので、起訴は客観的証拠に基づかない不当なものであると私たちは考えます。

麻酔によるせん妄状態の患者証言のみを根拠とした医師の逮捕・起訴が許される事になれば、医療現場に混乱と萎縮を招き、正当な医療行為や診療行為に大きな制約が付され、ひいては患者に重大な不利益が生ずることになりかねません。

この様な社会的にも大きな影響を及ぼす起訴決定に強く抗議し、医師の速やかな釈放を求めます。

4、皆さまへ

医師逮捕の報に触れ、皆さまにご心配とご迷惑をおかけしていることに深くお詫びを申し上げます。私たちはより一層、患者さんの療養環境や医療安全の充実に鋭意努力するとともに、医師の名誉と信頼回復のために早期釈放と無罪判決に向けた取り組みをすすめてまいります。

またこれまで、全国から当院並びに医師への激励や支援をお申し出いただきました医療関係者、弁護士、患者をはじめ多くの皆さまに感謝申し上げ、引き続きご支援ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。

以上